だから、待ってるから
長い夢を見ていた気がする。
とても幸せな夢。
白い靄の中をふわふわと歩いていた。そこにいるのはとても暖かくて、優しいものにぎゅうっと抱きしめられているようで、そこから離れたくなかった。声には出さなかったけど「ああ幸せだなあ、こんなに幸せなら死ぬのも悪くないなあ」なんて思いながら、ふわふわに身をゆだねてたゆたっていた。
どれだけの時間がたったのだろうか。一瞬のような気もするし、とても長い時間そうしていたような気もする。
「待ってるから」
さっき別れた彼の声が聞こえる。
あれ、私、さっきとてもかっこいい最後のセリフを決めたのに。私だって決めるときには決めるんだから。
若い遼クンかっこよかったな。学生のころも好みだわあ。あのころに出会っていたらどうなってただろう。学生同士の二人で会って、一緒の学校に通って、恋をして。
そうね、どうなっても私はあなたに魅かれていくような気がする。もしも会うことがあったら、今のあなたに「若いころの遼クンに浮気しちゃった」って言ってみようかな。あなたは何て言うだろう。変なところ自信家だから「今の方がいいオトコなんだよ」くらい言うかもしれないわね。
そうよ、ホントはわかってた。私はあなたが好きだったし、あなたも好きになってくれていた。どちらが先にとか、彼の好みはとか、考えすぎちゃっていたのは私。あなたと一緒にいて楽しければそれだけでよかったはずなのに。
もう一度伝えたい。今のあなたに、私の気持ちを。そして二人で泣いたり笑ったりしながらゆるゆると時を過ごしていきたい。今、本当にそう思う。
「待ってるから」
懐かしい、暖かい声が聞こえる。
もう一度会いたい。今のあなたに。
私は居心地のいい場所を出て、今度こそ、明るい光の見える愛しい人のいる場所に向かって歩き出した。