壱頁劇場すぴのべ
ロココ調の鏡台の上。色とりどりの口紅、キラキラ光るダイヤのピアスが片方だけ、アイライン、ラメのはいった緑や青のシャドウ、甘ったるいにおいのする白粉パフなどに混じって、パールのネックレスが無造作に置かれている。それを包んでいたリボンも一緒に。
落ちくぼんだ目だけぎらぎらした、薄いひげを浮かせた男が、鏡の向こうからこちらを無表情に眺めている。鏡の奥のベッドで白い肢体がみじろぎした。
このままカーテンを開ければ薄い日差しが差し込むだろう。窓を開け放って夜明けのひんやりした風にこの身を任せてしまおうか。甘く昨夜の夢にまどろんだままのこの部屋に爽やかな風が舞い込むだろうか。
過去に捕らわれたままの僕と、未来を思い描けない彼女。僕達はこんな時でさえ対等にお互いを傷つけ合っている。
君が昨夜とうとう離さなかった携帯電話の赤い光と、目覚まし時計の青い光。眠りにしがみつく君と、目をつむることさえ出来ない僕。この部屋で溶け合って澱んでいるといい。
愛も恋も、嘘も憎しみも、悪魔も天使も、過去も未来も、そんな言葉はこの部屋の中で何でもないものになる。二人きりなのにお互いが自分自身を抱きしめて、背中合わせで眠るといい。永遠の薄闇の中で。