壱頁劇場すぴのべ
「ああ、早く授業終わらないかな」僕は窓の外を眺めながら念じていた。おりしも昼下がり、古文の授業中。レコーダーとあだ名されるデコ林(禿げてる小林の略)の授業で、眠くならないやつがいたらお目にかかりたい。
教室にはねっとりとした空気が立ち込めている。窓の外は今にも泣きだしそうな曇天。ガラス窓の内も外も、何とも冴えない感じだった。
この授業が終わればクラブだ。トランペットなんてどうでもいいんだ、華子さんの隣に座れるだけで、かったるいクラブも輝ける時間になるのだから。あと10分。
「授業も残り10分になりました。先日のテストを返却したいと思います」
デコ林、何を言い出すんだ!
「最近、古文専攻の方で、全く勉強してらっしゃらない方が幾人かいらっしゃいます。今回のテストで40点以下の方は授業終了後、補修の後、再テストですので残って受けてください」
デコ林はまっすぐに僕を見つめていた。口元は笑っていたが、目は全然笑っていなかった。僕は、待ち焦がれている時間が今日は訪れないことを、その時悟ったのだった。