だから、待ってるから
「このホテルに部屋をとってあるのよ。行きましょう」
って、おい、俺は変なことになるつもりは全くない!
「あれぇ、変なこと考えてる? 大丈夫よ、襲ったりしないわよ。そっちはどうかわからないけどね」
艦長、こんなところで俺の理性を試さないでください!
「さ、行きましょう。種明かしするんでしょう?」
そう言って彼女はすたすたあるいていく。 俺はついていくしかなかった。
「さあ、来たぞ。早くしゃべってくれ」
今日は調子が狂いっぱなしだった。さっさと帰りたい。 ふかふかのクッションに沈みこみながら、俺は下宿の煎餅布団に焦がれていた。
「せっかちねぇ。……ねぇ、遼クンはどんな風に思ってるの? 推理しているんでしょ、遼クンのことだから。聞かせてよ」
彼女は相変わらずの余裕を見せながら、指を組み合わせた。
「……アンタ、親戚なんて嘘だろう?」
「そうね、本当は親戚じゃないわ」
悪びれもせず彼女は認めた。
俺は今日一日考えていたことを話し始めた。
「考えたんだ、親戚じゃないにしても、俺のことに詳しすぎる。ある程度は近い存在に違いない。それにさっき、親父の口癖にうけていただろう」
「……だとしたら、どうなのかしら?」
薄ら笑いとも見える表情で、彼女は聞き返す。
覚えてろ、吠え面かかせてやる。
「アンタ、親父の愛人だろう」
彼女はたっぷり一分は固まっていた。
それから、口許がほどけていったかと思うと、いきなり笑いだした。
「そ、それって……うけるぅ。……それは思いつかなかったわぁ」
なんだ、違ったのか。
家庭内争議の危険性まで考えていたので、ちょっと安心。バカにされたような気になってちょっと悔しいが。
だとしたら、この女は一体何者なんだ。
親戚じゃなくて、俺のことに詳しい。前の彼女の芙美子のことまで知っていた。
小学校のあだ名や、親父の口癖、お袋の旧姓まで知っている、この女は誰なんだ?
「うふふー、今日、遼クン誕生日でしょう? お誕生日おめでとう」
「……お前は誰だ?」
彼女はにっこり微笑んだ。
長くなるわよ、と前置きしてから彼女は話し始めた。