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初めての……

『おでここっつんしている』『薫子』を描きor書きましょう。
キスの日に、「文学部石川助教授シリーズ」の桐原クンと薫子ちゃんのイメージで書きました。

 手を普通につながないで、指と指を一本ずつ絡めてつながれた。私がびっくりして見上げると、彼はささやくように顔を近づけて教えてくれた。
「恋人つなぎっていうんや」
 ぎゅうっ、と力を入れて握りしめられる。心臓のドキドキが止まらなくなった。汗が背中にじんわりにじんでくるのがわかる。
 手にも汗をかいているような気がしてくる。気持ち悪いって思われないかな。嫌じゃないかな。そんなことばかり考えて手を離そうともがいてみるけれど、彼の指が根元までしっかり絡みついて、離してくれようとしない。
 彼の視線が痛いのに目が離せない。どうしよう。なんだか顔が歪んでくる。ううん、胸の底の私はもう泣き出している。
 いつの間にか足が止まってしまっていた。近づいてくる瞳に私の影が写っている。頼りなげにゆらゆら揺れながらゆっくり近づいてくる。

「なあ、キスしてもええ?」
 心臓の辺りで大きな音が、ボンと鳴った気がした。きっと彼にも聞こえているだろう。こんなに近いのだもの。
 口を開きかけたそのとき、空いていた彼のもう一つの手が私を抱きしめ、唇が口をふさいだ。
 もうだめ。目を開けてなんかいられない。足もガクガク。初めて触れる彼の唇と舌はぽってりとして、やわやわと暖かくって、私はもうとろけてしまいそうだった。

「がまんできへんかった」
 彼の言葉が私の唇を柔らかくついばんでいる。私は立っているのがやっと。彼の腕がなかったら崩れてしまっていたかもしれない。背中に回された手が熱い。とても熱い。
 すうっと唇が離れていった。ひんやりした感触に、一瞬寂しい、と思ったけれど、彼の目は私をじっととらえていて離さない。今の気持ちも見抜かれてしまっているのかもしれない。
 やだ、もう恥ずかしくてたまらない。顔がほてって汗臭いんじゃないだろうか。嫌われちゃったらどうしよう。

 不意に彼がふっと笑いをこぼして、おでこで私の額をコツンとした。
「顔が真っ赤だ」
 そう言われて余計に恥ずかしくなって、たまらなくて、下を向いてしまう。もう何も見ない、何も聞こえない。
 いつの間にか離されていた、つないでいたはずのもう一方の彼の手が、私を包むようにやんわりと抱きしめた。
「大好きだ」
 耳元でそうささやかれて、私は体の支えを失った。壁にずるずるもたれ込みながら、それでも見てしまう。彼の笑い顔はからかっているのではなく暖かで、その手は私に向かって差し出されていた。


1000字ちょうどにおさめてみました。

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